【痛みの症例報告】
(写真はぜんぜん本文と関係ありません)
症例報告
Hさん 70才男性
初診 2017年10月8日
主訴 九月末から左腰が痛くてどうしようもない
座って居ると痛くないが、立った瞬間から痛い。身体が伸びず、数十mと歩けない。階段もやっと。横になっても痛みで寝ていられない。痺れもある。でも、ぜんぜん痛みが無い瞬間もある。
体力を付けるため筋トレをしていた(腹筋300回 背筋100回など)が、それがやりすぎだったかも・・・
とのこと。
整形外科では坐骨神経痛でしょうと言われ、痛み止めをもらったが改善せず。その後、整骨院に行き下肢の筋肉が固い、とうつ伏せで無理にストレッチしたことで劇的に悪化。ほぼ歩けなくなり家族の紹介で、当鍼灸院に来院した。
まず、所見として。いわゆる坐骨神経痛にしては下肢の痺れの出方がちがう。踵・足の裏などに知覚異常なし。患側だけの筋力低下もない。足関節の背屈・底屈も問題なし。
よく疑われる梨状筋症候群でも無い。梨状筋がゆるむ体勢をとると、かえって痛みが悪化する。
立った瞬間から強度としては同じ痛みが出るので、脊柱管狭窄症とも違う。
痛みは、腰方形筋・大臀筋など腰もあるが、なによりハムストリングスから膝の後ろ、すねにかけて間欠的に歩けないくらいの痛みがある。痛みが増すと足に力が入らない。
以上の訴えから、これは年に数例ある「大腿部の長期的な痙攣」であろうと推定。
大腿四頭筋・ハムストリングスなどに、本人に足の攣り・・・痙攣と自覚されない、周期的な激痛が繰り返し発生する病態で、筋肉の起始・停止に強い痛みが出る。痙攣時は鼠蹊動脈などの拍動がはっきりと強まり、痙攣が治まると拍動も沈静化する。寒くなる秋が多い。
ヘルニア既往がたぶんに影響していると思われるが、直接の起因は「脱水」「筋肉への過度の刺激など間違ったアプローチ」「冷え」である。
些細な刺激で痙攣は誘発され、冷やす・揉む・その筋肉を緩めることで増悪。
ハムストリングスを確認したところ、座骨結節からひざ裏の外側にかけての大腿二頭筋が周期的に痙攣しており、その起始停止部分の痛みが明らかに強かった。うつ伏せで膝を立ててゆるめたところ、痛みは増悪。患部を確定した。
Hさんの場合は、とにかく痛みのため全身の緊張もひどかったので、上半身はさとう式でゆるめ、全身は温玉で温め、頻回、発作のように痛む患部には鍼で施術。ぜったいに、揉んだり引っ張ってはいけない。
施術後、自宅での指導として、これは痙攣であるので、とにかく冷やさないこと。ホカロンや温玉で温める。揉むは禁忌。ストレッチも勧めない。歩き出しには座骨結節の起始部をつかんで補助する。寝る時には大腿二頭筋を少し引っ張った状態を作りたいので、膝から下に枕など入れる。水分をキチンと摂る。梅干しやレモンなどクエン酸を摂る。芍薬甘草湯を飲むこと、などアドバイス。
初回施術後、いったん痛みが消え、歩行が大変楽になったが、(予想通り)夜には元通り。次の週も同じ状態で来院。しかし、その後着実に痛み・痙攣回数・持続時間など改善し、11月26日には800m、12月3日には2km歩けるようになった。
痺れも第2指の先端にわずかに残るだけとなった。
上記のような症状で悩む方も多いと思う。
冷湿布や痛み止めで、まったく症状が改善しない場合、MRIなどで重篤な病変が無い場合、それが坐骨神経の神経根症状ではない可能性も、考えてみることが必要である。